アルミニウムは、下記の特性があります。
軟らかさと延性
アルミニウムは一般的に軟らかく、延びやすい性質を持っています。これにより、切削時に材料が変形しやすく、バリやカエリが発生しやすいのです。また、切削工具に チッピングと呼ばれる微小な欠けが生じる原因にもなります。
高い熱伝導性
アルミニウムは熱伝導率が高いため、切削時に発生した熱が工具や加工物全体に拡散しやすいという特徴があります。これは、工具の温度上昇を抑えるというメリットがある反面、切削油の冷却効果を低下させ、溶着の原因となることもあります。
凝着性
アルミニウムは、切削工具の材質と化学反応を起こしやすく、切削面に凝着しやすい性質を持っています。この凝着が進行すると、工具の摩耗を早めたり、加工面を荒らしたりする原因となります。
切粉の排出性
アルミニウムの切粉は、軟らかいため、切削中に工具に絡みつきやすく、排出が困難になることがあります。切粉が工具や加工物に再付着すると、加工不良や工具の損傷につながります。
結晶構造
アルミニウム合金の種類によっては、結晶構造が均一でない場合があり、切削抵抗が変動しやすく、安定した加工が難しいことがあります。
アルミニウムの切削加工においてよく発生する5つのトラブルと、それぞれの具体的な対策について解説します。
①工具が溶着する
切削中に発生した熱と圧力によって、アルミニウムが工具の刃先にくっついてしまう現象です。溶着が発生すると、加工面の粗さが悪化したり、工具が欠損したりする原因となります。
対策
適切な切削速度と送り速度の設定
切削速度が速すぎると、摩擦熱が増加し、溶着しやすくなります。材料や工具の種類、加工方法に合わせて、適切な切削速度と送り速度を設定することが重要です。一般的に、アルミニウムの切削では、比較的高い切削速度と低い送り速度が推奨されることが多いです。
切削油の適切な使用
切削油は、切削面の冷却と潤滑、そして切粉の排出を助ける重要な役割を果たします。アルミニウムの切削には、油性切削油や水溶性切削油が用いられますが、特に冷却効果の高い水溶性切削油が有効な場合があります。切削油の種類だけでなく、供給量や供給方法も適切に管理することが重要です。
ポジティブなすくい角を持つ工具の選定
すくい角とは、工具の切刃面と加工面との角度のことです。ポジティブ形状のすくい角(すくい角がプラス)を持つ工具は、切削抵抗を低減し、切削熱の発生を抑える効果があります。アルミニウムのような軟らかい材料の切削には、ポジティブ形状のすくい角の大きな工具が適しています。
定期的な工具の交換
工具が摩耗すると、切削抵抗が増加し、溶着のリスクが高まります。定期的に工具の状態を点検し、適切なタイミングで新しい工具に交換することが重要です。特に、刃先の摩耗や欠けが見られた場合は、早めに交換する必要があります。
②工具に切粉が巻き付いて、傷が入る
軟らかく粘り気のあるアルミニウムの切粉が、切削工具の刃先やフランク面に絡みつき、それが加工面を引っ掻いて傷をつけてしまう現象です。
対策
大きなチップポケットを持つ工具の選定
チップポケットとは、切削工具の刃先に設けられた切粉を排出するための溝のことです。大きなチップポケットを持つ工具を使用することで、切粉の排出性を向上させ、工具への巻き付きを防ぐことができます。
研磨工具の選定
工具の表面を滑らかに研磨することで、切粉が付着しにくくなります。特に、アルミニウムの切削においては、研磨仕上げをした工具の使用が有効です。
エアブローやクーラントによる切粉の強制排出
切削中にエアブローやクーラント液を噴射することで、切粉を強制的に排除し、工具への巻き付きを防ぎます。エアブローは、特にドライ加工において有効な手段です。
切削条件の見直し
送り速度が遅すぎると、切粉が細かく分断され、工具に絡みつきやすくなることがあります。適切な送り速度を設定することで、切粉をスムーズに排出することができます。
③熱による寸法変化が起こる
アルミニウムは熱膨張率が高いため、切削中に発生した熱によって加工物が膨張し、冷却後に寸法が変化してしまうことがあります。特に、精密な加工においては、この熱による寸法変化が問題となることがあります。
対策
切削条件の選択
切削速度や送り速度を適切に設定し、切削抵抗を減らすことで、発熱を抑制します。また、断続切削を避け、連続した切削を行うことも発熱を抑えるために有効です。
十分な冷却
切削油を大量に供給したり、ミスト冷却を利用したりすることで、加工物や工具の温度上昇を抑えます。冷却効果の高い水溶性切削油の選択も重要です。
複数回の仕上げ加工
一度に目標の寸法まで切削するのではなく、荒加工後に時間を置いて温度を安定させ、仕上げ加工を行うことで、精度の高い寸法が得られます。
熱膨張を考慮したプログラミング
NCプログラムを作成する際に、アルミニウムの熱膨張率を考慮して、工具のパスや補正量を調整します。
④タップ穴の不良
アルミニウムは軟らかいため、タップ加工時にネジ山がつぶれたり、バリが発生したり、精度が悪くなったりすることがあります。
対策
適切なタップの選定
アルミニウムのタップ加工には、食い付き部の短いポイントタップや、切りくず排出性の良いスパイラルタップが適しています。また、タップ材種やコーティングも、アルミニウムとの相性を考慮して選定する必要があります。
低速でのタップ加工
タップ加工時の回転速度を低く抑えることで、発熱を抑え、ネジ山の変形や工具の損傷を防ぎます。
下穴径の適切な管理
下穴径が小さすぎると、タップに過剰な負荷がかかり、ネジ山がつぶれる原因となります。逆に、大きすぎると、十分なネジ山が形成されません。材料やタップの種類に応じた適切な下穴径を設定することが重要です。
スローアウェイタップホルダの利用
スローアウェイチップ式のタップホルダを使用することで、切削抵抗を低減し、安定したタップ加工が可能になります。また、チップ交換式のため、工具コストの削減にもつながります。
⑤柔らかいので、仕上がり表面が悪い
アルミニウムの軟らかさが原因で、切削面に工具のビビリ振動や塑性変形による凹凸が生じ、滑らかで美しい仕上がり面が得られないことがあります。
対策
剛性の高い工作機械と工具ホルダの使用
工作機械や工具ホルダの剛性が低いと、切削中に振動が発生しやすくなります。剛性の高い機械やホルダを選定し、しっかりと固定することが重要です。
ショートリーチの工具の使用
工具の突き出し量が大きいと、振動が発生しやすくなります。できるだけ突き出し量の短い工具を使用することで、剛性を高め、振動を抑制します。
多刃の仕上げ用工具の選定
仕上げ加工には、刃数が多く、切れ味の良い工具を使用することで、より滑らかな表面が得られます。
微細な切込みと低速送りでの仕上げ加工
仕上げ加工においては、切込み量を小さく、送り速度を遅く設定することで、工具にかかる負荷を減らし、安定した切削を実現します。
今回は、アルミの切削加工におけるよくあるトラブルとその対策について紹介いたしました。アルミ加工コストダウンセンターを運営する株式会社岡部機械工業では、国内屈指の最先端設備を揃えており、高精度な加工を実現する環境を整えているため、お客様のご要望に沿った製品づくりを実現いたします。
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